デリバティブとは – 塚越 至

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ケンタッキー州公認会計士
塚越 至
毎日のように見聞きする「デリバティブ」あるいは「デリバティブ取引」の語ですが、これは何を意味し、どのような取引なのか?
デリバティブなる語を頻繁に目にしたり聞いたりするようになったのは1980年代のことだったと思われます。しかし、この語が意味する取引は18世紀に始まり、しかもその発端は江戸時代の日本でした。大阪堂島で始まった米の先物取引がそれで、当時の日本は最先端を走っていたことになります。


1968年に商社に就職した筆者の配属先は機械輸出の営業でした。初日に先輩社員が最初に指示した事務処理が為替予約で、為替予約を忘れると始末書程度では済まされず除社処分になるぞ、と脅されたものです。この為替予約をデリバティブ取引と呼ぶ者は当時は皆無でしたが、これも典型的なデリバティブ取引です。
「デリバティブ」は金融派生商品と訳されています。直ぐには理解が困難な訳ですが、派生が意味するのは、株式や債券などの金融商品と異なり、何か客観的に数値が変動するものを対象に、その変化に応じてお金を貰ったり払ったりする取引を指すからです。
 何故デリバティブが存在するか?大別すればふたつの理由です。ひとつは上記の為替予約の例のように将来リスクの回避(ヘッジ)で、保険の役割を果たしています。他は、将来の変動値を読み利益を得ようとする投機目的です。この投機目的は価格の大きな変動を防ぐ上でも効果をもたらします。
 デリバティブには3種類あります。先物・先渡取引、スワップ取引、オプション取引で、それぞれの仕組は次のようになっています。
先物・先渡取引
将来トウモロコシ価格が高騰すると予想すれば先物のトウモロコシを買い、実際に将来時点で価格が値上がりしていれば、そのトウモロコシを売れば差額が利益になります。予想に反して値下がりすれば、差額は損となります。
逆に将来価格が値下がりすると予想すれば、先物のトウモロコシを売る契約を結び、実際に値下がりすればその値下がりしたトウモロコシを買って、既に契約した販売価格で売れば差額が利益になります。値上がりすれば調達コストが上昇しますので、差額が損になります。
先物の為替レートを確定する為替予約が典型的な先渡取引です。
スワップ取引
代表的なものが金利スワップ取引です。
企業Aが銀行から変動金利で融資を受けた想定します。利率を銀行間レートであるLIBORプラス1.5%としましょう。変動金利ですので将来の金利が上昇すると金利負担が増大するリスクを負うことになります。
これを回避するために、企業Aは企業Bに対し銀行からの融資と同額をLIBORプラス0.7 %で融資し、代わりに企業Bから6.5%の固定金利で融資を受けたと想定する契約を結びます。両社の間ではお互いにこの想定融資のお金の交換がされないのがデリバティブ取引の特徴です。
この取引によって企業Aは銀行にはLIBORプラス1.5%の金利を払い続け、一方企業BからはLIBORプラス0.7%の金利を受け、代わりに6.5%の固定金利を支払うことになります。
こうして企業Aは銀行融資から生じた金利変動リスクを回避し、6.5%プラス金利差の0.8%である7.3%に金利を固定することが可能になります。
同じような仕組で為替レートなどの変動リスクの回避にスワップ取引が利用されています。
オプション取引
あるものを約束した価格で買う権利や売る権利がオプションで、買う場合をコールオプション、売る場合をプットオプションと呼びます。
上記の先物取引や先渡取引では期日には必ず契約した価格で売ったり買ったりしなければなりません。これに対して、コールオプションを持つ者は、期日になって買うと契約した価格よりも市場価格が高ければコールオプションの権利を行使して買い、その商品を転売すると利益をもたらし、市場価格が低ければ権利を放棄し、オプション料だけを損失として負担することが出来ます。
プットオプションを持つ者はこれとは逆に、市場価格が低ければ権利を行使して売り、時価で買い戻せば利益となり、市場価格が高ければ権利を放棄することによって損失を限定できることになります。
上記はオプションを購入した場合です。一方、オプションを売った者はオプション料を受け取るのが目的となりますが、期日の市場価格が思惑とは逆に変動すると差額が損失になるリスクを負うことになります。この基本的な仕組は保険と同じで、保険もオプション取引の一種ということになります。
このオプション価格は将来のリスクを想定して算出されますが、対象となる資産の将来の価格が確定している場合は、オプションの価値は、将来お金を受取るまでの金利相当分を割り引いたものになります。
一方、株式のように変動する商品の場合は、将来の株価がオプション行使価格を越える確率を算定してその期待値を導き、対象商品の現在価値から行使価格の現在価値を差引いて求めることになります。この手法にはブラック・ショールズの公式が知られています。
2010年米国金融規制包括改革法(Dodd-Frank Act)
デリバティブ取引には取引所を介在する「Exchanged-traded derivative contracts 」と、契約当事者間だけで成立する「Over-the-counter(OTC) derivatives」の二種が存在します。
前者は米国ではCME Group(Chicago MercantileとChicago Board of Tradeが合併、その後にNew York Mercantileを吸収したもの)、欧州ではEurex、多額の取引量で知られる韓国のKorea Exchangeなどの代表的な取引所で契約が取り交わされています。BISのデータでは、2005年には全世界で344兆ドルがこれら取引所経由でなされたとあります。
前者では、第三者である取引所に契約額、当事者の情報など記録が存在し、リスク管理の面では容易であるのに対して、後者は契約当事者のみが取引内容を知る取引であるために、危機発生時に当局が実態を把握できず、その上デリバティブ商品の多様化で、当事者同士でさえ契約相手との間に発生するリスクを十分に捉えていないことがリーマン・ショックで明らかにされています。
このため、ドッド・フランク法ではこのOTCデリバティブ取引の規制策を取り入れています(2,319ページにのぼる同法がデリバティブに充当したページは450ページ)。
概要は、取引内容の開示、リスク低減のための契約額の制限(契約当事者の資本金の3%以内)、借入金の制限(対資本負債率を15対1に制限)に加えて、民間組織のクリアリング機能創出を含めています。
このクリアリング・ハウスの具体的詳細は今後政府機関が同法を実施する際に決定することと定められていますが、これまでは当事者のみが抱えたリスク情報の外部への開示が実現し、危機回避には大きな効果が期待されます。
BISによれば2008年の全世界のOTC取引は684兆ドルだったとあります。
                               (完)