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2006年08月25日 16:27に投稿されたエントリーのページです。他にも多くのトピックエントリーがあります。メインページやアーカイブページをご覧下さい。
メイン | 話せ!しゃべれ!語れ! [中村正董] »米国事業事始め 第十章 働く仲間たちと家族 [鈴木一広]
会社全体に“全員参加の経営意識”を浸透させようにも、お互いの信頼関係も出来ていない中では、出来る筈も無かった。
「従業員の本当の気持を知ることだ!」
しかし、自信がなかった。
「会社に対する苦情、不満は上司が聞いても出てくる筈もないだろう」
「どこかに、よいコンサルタントはいないだろうか?それに頼もう」
従業員の本当の声を聞き出すにも、皆が正直に話してくれるのか?それよりも面と向かって不満を聞くのが怖かったと言えよう。
「我々に3ヶ月下さい。そして就業時間中になるが、全ての従業員との面談をさせてもらいたい。これにはマネージャー以上は一切関与しないこと」
コンサルタントは、きちんとした戦略を示し、3ヶ月経ったらモラル調査の結果をトップに報告しましょうと約束した。
そして、更に恐ろしいことを言った。
「調査結果による社員の苦情は、全て素直に受け入れてその検討をする事、そして全社員の前で、これを報告することを約束してもらいたい」
だが、コンサルタントは流石であった。全社員といったが、個人面談ではなく、グループ単位での面談を行った。
個人では、正直に話した後の事が心配で本音を聞き出せないからである。
数名単位の座談会の中で、コンサルタントは、苦情だけで無く、会社が好きな理由も一緒に聞く方針をとった。
これは、会社が今後とも継続した方がよい事も、同時に知ることが出来るからであった。
調査結果は、実に散々なものであった。
会社のトップへの不満がこれ程のものとは、想像もできなかった。
特に、カズには、かなりショックであった。
駐在員の中で、唯一人、長期海外勤務の経験があり、そして誰よりも従業員との対話に意欲をもって毎日の様に職場をまわり、皆の声を聞き、我ながら現地社員の信頼を得ているものと、ひそかに自負していたからである。
「毎日、職場をぶらぶら回り、あちこちで、話をするだけで高い給料がとれる身分の人が、羨ましい」
きれいな職場つくりにと、率先して紙くずなど拾う行為に対しては、何と、「高給取りが、掃除屋さんと同じ仕事をしているのは不公平だ!」等と、こんな始末であった。
不満と怒りを感じるような結果であったが、コンサルタントは、これを読んでから、一週間後に対策会議を持ちましょうと言った。
不思議にもこの一週間で、評価結果を冷静に考える心境になっていた。
自分たちでは聞き取れなかった声が聞けたのは、紛れも無い事実であった。
全ての苦情を整理し、対応出来るもの、出来ないものに層別し、公表しながら、実際に対策が完了するには、一年以上を費やす大仕事となった。
声無き声を聞きだすには、今後どうすればよいのか?
まず、考えたのは、八代将軍吉宗候ではないが“目安箱”の設置であった。
しかし、これは実施直前になって取りやめた。
“書き物”となると、何でも好き勝手な事が言える、その上、匿名となるともうきりが無いだろう。
「回答も出来ない内容なら無視して良いのか?」
「意見を出しても、会社は回答もしてくれないではないか!」
これでは、何も解決にはならない。とにかく直接対話をしてみよう。
1993年3月、増産の続く中で、「社長との直接対話会」を発足させた。
これは、参加者を各職場から適当に人選し、15名ほどのグループを作り、“多勢に無勢”で従業員側が少し有利になるように仕組んだ。
会社としては、日程通知や会場準備、食事の手配など人事部の援助を頼んだが、会議には人事やマネージャー達は一切出席出来なかった。
会議は食事をしながら、リラックスした中で進め、“何を話すか”は大切であるが、誰が話したか?は一切不問とした。
毎月の会議であったが、話題はつきなかった。
「よくもこれだけの苦情が出てくるものだ」
対話会のホロー、対策をする中で、マネージャー達もあきれる程であった。
始めてから、二十数回を経た頃であったろうか?町で買い物をしている途中、偶然にも一人の社員とその家族に出会った。
「今月の社長対話会のメンバーに決まったんですよ!今、職場の意見を聞いて回っていますが、いいアイディアが出そうです」
「直接、話が出来るのを今から楽しみにしています」
家族に“社長との対話会”の事を自慢そうに話しながら立ち去っていった。
その後姿に、対話のシステムが確実に動き初めている事を確信した。
1) E-I( Employee’s Involvement ) 活動の実践
E-I活動の導入は、すなわちE-Iの教育であった。
コンサルタントの薦めにより、教育はマネージャークラスから始めた。
企業の組織を安全に保つ為にも、まずマネージャー達が一般従業員より一歩先を進み、新しい活動を理解していなければならないからである。
それでも一般社員への教育が進むなかで、一部マネージャー連中には混乱が起きていた。
「全員が経営を考えるのだから、マネージャーなんて要らない!」
工場内でまず起きたのは、「マネージャー不要論説」であった。本来ならば正にパニック状態になるところであった。
「マネージャー不要論」を真面目にとらえ、進むべき方向を冷静に討議し始めたのは、教育の進んでいたマネージャー達自身であった。
「マネージャーとは、実際に何をするべきであろうか?」
「目標のないグループにはリーダー、管理者が要るが、目標を持って進む連中にはどういう監督、支援が必要なのか?」
「結局、やはり彼らの言う通り、この会社にはマネージャーは不要か?」
結論として出てきたのは、“マネージャー不要論であり、代わりにコーチ役必要論説”であった。
コンサルタントとの検討会でも、これが進むべき方向だと決まった。
「目標を持って進むチームには、管理、監督、引率するよりも改善、改良を進めていける様なコーチ役となってチームの後押しをすることである」
これが、正にコンサルタントが思っていた事でもあったのだ。
コーチとは?、これはまさしくプロ野球などの“バッティングコーチ”などと同じで、如何に効率的な打撃ができるか?プレーヤーを助けることである。
「コーチ役として、もっとも大切なことは何か?」
「それはプレーヤーを良く知る事と、コミニケーション能力です。これからはマネージャー教育はコミニケーションを重点に進めます」
それから、コンサルタントによる教育が本格的になったが、工場操業に影響の出ないようにランダムに抽出した20名ほどのグループに分け、近くのカレッジの施設を借りて実施された。
そして、全従業員対象に2日間の社外教育を完了するには、実に3年間の期間を要する長丁場となった。
一方、マネジャー達の教育は、コミニケーション、目標管理、問題提議&解決などが中心で、月に一度、丸一日職場を離れて行った。教育場所をあえて職場から離したのは、マネージャーの居ない職場でも工場が問題なく稼動できる事を彼らに自覚させる為でもあった。
「一番遅れている日本出張者をどうしようか?」
日本で身に着けた技能伝達が職務とは言え、新しい管理の流れから遅れて行っては人の教育にも支障が出るものと思われた。
「英語の勉強を兼ねた輪講をやろう」
取り上げたのは、E-Iの教書“ZAP”の英語原本であった。
1995年7月にスタートしたこの勉強会は、週に一度金曜日の就業後とし全員が翻訳で苦しみながらも続けられた。苦労の末、やっと教本を読破したのは、1年半も経った1997年1月末であった。
「これからは、もう少し視野の広がる楽しい内容の教材にしたいね」
ZAPの後は、日本の著名人のビデオを取り寄せ、教育機会の乏しい駐在員に対し、管理能力向上策として、このビデオでの教育を続ける事になった。
E―Iの教育は、E-I活動の職場への導入と平行して行われた。
そして、自分たちの仕事目標と業績、会社業績の公開、改善チームの活動状況などを目で見えるものにして職場に掲げた。
そして全員参加のこの活動は、仕事以外の会社活動、会社記念行事、社会奉仕、親睦会などにも拡大して、これら活動を社員たちが積極的に計画、実施する様になっていった。
衆知を集めた力でなければ出来ない数々の実績も残した。
例えば、日系会社によくみられる“QCサークル”活動も独特な発想で、従業員達のアイディアに従って実施された。
品質に限らず職場を改善、活性化できるテーマなら何でも発表できたが、ユニークなのはその発表の方法であった。
一般に、社内発表は会社のお偉方が審査員となるが、ここでの発表は会社のトップは単なるオブザーバーで、審査員は社外の人達に依頼した。地元カレッジの学長、高校や職業訓練所の所長や先生、市長さんに市会議員、不動産屋、病院の院長、看護婦さんなど多士済々である。
発表に対するこれらの人達の講評は新鮮で、又、双方の勉強になった。
「工場って、決められた仕事を黙々とやっていると思っていたのに、全員が自由に改善に取り組み、自分たちの仕事を良くしようと楽しんでいるなんて、思いもよらない発見でした」
「市の行政にも、病院にも、看護婦のサービスにも直す点がいっぱいある事を知りました」
こんなコメントが何よりもうれしく社員たちに勇気を与えた。
E-I教育はコンサルタントの教育がベースになったが、社員たちの教育は、On the Job Training が中心であって、自己啓発が不可欠な基本姿勢であった。
2) 一通の手紙
E-I活動は、何か行う時、最初にプログラムを公表し、計画、実行の希望者を募るのが一般的である。
会社の親睦会などはその代表例である。
社員への感謝も大切だが、それを支える家族への感謝をどう表すか?
親睦会を担当するグループが、家族デーを提案した。
一同で考えた結果、かねてから「お父さん、お母さんの職場が見たい」という家族の願いがあって、工場見学会デーを決め、年中行事とした。
しかし、どうもこれでは物足りなかった。
そこで、家族一同をパラマウント社が経営する近くのアミューズメントパークへ招待し、会場内で大バーベキュー大会をやろうという話になった。
予算枠を会社から出されると、この中でどういう楽しい趣向ができるのか?
「家族もいいが、アスモのファンと言う親戚関係の人なら少し自己負担をすれば参加できるようにしたら?」
「会社にとっても、社員に仲間が増えるので、楽しいみたいね」
そんなことで、プロジェクトが決まり、パーク内の施設で総勢3,000名を越すパーティーを持つ事になった。
「これは、私の娘の一番親しい友達です」
社員の一人が嬉しそうに、カズに近ずきながら紹介した。
「何だ!親戚でも何でも無く、はっきり言って全くの他人ではないか?」と思ったが、まあ、皆さんに楽しくやって頂ければ良いかと笑顔を返した。
家族感謝祭デーが済んで一週間程して、一通の手紙がカズの元に届いた。
初めて手紙を出します。私は、三人の子供を持つシングルマザーです。
手紙は、こんな書き出しで始まる手書きのものであった。
“先日は、キャロウィンパークへ招待頂き、ありがとうございました。本当に我が家には夢の様な一日で御座いました。
ハイウェイから、いつも見るあの大きな観覧車やローラーコースターは、私達家族には無縁のものでした。あのローラーコースターに乗りたい!という下の娘の声にも一人だけの収入ではとても答えてやれませんでした。
そんな時、12歳になる長男が、妹や弟に向かって、俺が大きくなったら、働いて皆を連れて行ってやるから、と言ってはいつも私を泣かせました。
でも、そんな夢がかないました。
もう、嬉しくて、嬉しくて子供たちは、前の晩から大騒ぎでした。
そして、朝から晩まで、公園の中で、はしゃいだ子供達、夫が逝ってから我が家で久し振りに見せた笑顔でした。
本当に有難うございました。
今、アスモで働いていて本当に良かったと思います。これからもこの会社で皆さんに迷惑を掛けない様、一生懸命に働きたいと思います。
もう子供達は、今日も又、あの日の楽しかった話で、夕食は賑やかです“
カズは、感動で文字が霞んで読めなくなってしまった。
カズの異常に気が付いたのは、近くの人事部の連中であった。
「カズさんが、泣いているみたいだ。誰かがきっとひどい間違いでもしたに違いない」
秘書の井上嬢が人事マネージャーに呼ばれた。
「秘書だから、何か知っているでしょ?そっと聞いてくれないっ?」
「どこかお悪いですか? お茶でも入れてきましょうか?」
遠慮気味に訪ねる秘書に、カズは黙って手紙を手渡した。
手紙に目を通していた秘書も読み終えると、足早にトイレに向かった。
E-I活動は、仕事を通してチームワークを育てたが、実際には働く仲間同士の絆を一層強める事にもなっていた。
E-I活動は、辛抱を要した活動であった。
特に、マネージャー達には苦労を要求した。担当者に責任と権限を与え、出きれば、可能なかぎりその範囲を広げるという事は、組織の破壊とも言えるものであった。
一方、「マネージャーなどいらない」
と言った、担当者達も、任された責任の重大さを再認識する事になった。
責任、権限の委譲は、すなわち教育レベルとの兼ね合いであるから、マネージャーの権限を任されるには、それだけの実力が必要であり、それこそ毎日が勉強であった。
一方、その勉強を助けることが、又マネージャー達の役割でもあった。
お互いが、心を開いた会話が出来ることの大切さ、それは毎日公平な気持で人と接する精神状態でなくては出来なかった。
その為にも、会社は、社員の精神衛生、健康管理に気を配りその為の投資をすることも大切であった。
従業員とその家族を大切に、そんな思いでE-I活動は、1990年には他社に先駆けて401Kの制度を導入した。会社はその制度にドーネーションをすることで支援を行った。
第十章での教え:
1) 権限と責任は一体のもの、責任に見合った教育を忘れて権限を与える
ことは無謀である。教育計画無しにE-Iに取り組むべきでは無い。
2) 社員の幸福を願う気持無しに、会社への貢献を期待出来ない事。社員の
やる気は、会社よりも家族が与えてくれるものと知る事です。
3)自分たちのやっている事と会社業績との関係、自分たちの努力が会社に
どう貢献出来ているか?目で見えなければ働く意欲は湧きません。
日時: 2006年08月25日 16:27 | パーマリンク
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