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2010年01月07日 19:38に投稿されたエントリーのページです。他にも多くのトピックエントリーがあります。メインページやアーカイブページをご覧下さい。
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経営資源の獲得を目的として企業買収を行う会社にとって、「ヒト」あるいはヒトが有する「情報(ナレッジ)」は成功の是非を決める大きなファクターといえます。どんな好条件に見えたM&Aでも、統合後にキーパーソンが辞めてしまう、買収先の社員がやる気をなくして期待通りの貢献をしてくれない、あるいは企業文化の違いが日々のオペレーションの効率を下げる、といった人的な問題のために当初期待していた企業価値の創造が実現しなかった例は枚挙にいとまがありません。
にもかかわらず、M&Aのプロセスにおいて人事の要素はこれまで比較的軽視されてきました。デュー・ディリジェンスの一環として年金債務の精査は行われても、それ以外は統合の決定がなされたのちに人員削減、再配置、制度統合などの人事の作業が開始するというケースが少なくありませんでした。また、エグゼクティブのリテンション(引き留め)については比較的に早期から検討されていても、総合的なM&A人事戦略の一環というよりも個別の対応策と見なされがちでした。
「ヒト」「ナレッジ」という資源が、「モノ」や「カネ」と比べ定量評価しにくいことが、M&Aの過程で人的要素が後回しになっていた一つの理由と思われます。また、人に関する意思決定がラインごとに行われてきた米国企業にとっては、人事部に期待される役割が事務処理中心であったという歴史的な背景もあると思います。統合後の全体像を見据えて人事の観点から戦略を描ける人材を擁する企業も多くはありませんでした。
しかしM&Aの対象が伝統的な製造業から、ソフトウェア開発やR&D、サービスなどの分野に広がるにつれて、人的資源の扱いに関するミスは致命的な要素になってきました。人が唯一の資産である会社にとって人材の流失や人材活用の失敗は、買収のリターンをゼロ以下にしてしまいます。
たとえば伝統的な大企業が、急成長を遂げてきた小規模のIT企業を買収するとします。大企業の文化を嫌う有能なプロジェクト・リーダーが辞め、それに従うメンバー達が辞めて行けば、結局買収後の企業は歯がこぼれた櫛のような状態になってしまいます。しばらく様子を見ようと取りあえず新企業に移った社員達の中でも優秀な人材には、競合他社やヘッドハンターからの勧誘が集中するでしょう。こうしたシナリオは日米を問わずよく耳にされます。
M&Aを成功させる人事のプランは、デュー・ディリジェンス以前の、対象企業の絞り込みの段階に始まります。M&Aの戦略的な意義がどこにあるのか、市場拡張か、新規事業への参入か、技術力か、コスト削減か、等によってあるべき組織形態、人的な成功要因、必要な人材像が決まるのです。
あるアメリカ企業の例です。この企業はこれまで数回のM&Aを経験してきましたが、以前はM&Aプロセスの初期段階から参画していたのは財務と法務のみで、人事部門は買収の最終段階に初めて詳細を明かされる立場でした。結果として人事分野の対応が遅れ、企業文化のミスマッチによるシナジー機会の損失、社員が期待する新組織像・新制度と現実のギャップによる失望、キーとなる幹部社員の流出が問題になっていました。
その経験に学んだトップ経営陣は、最近のM&Aで対象企業の絞り込みの段階から統合後まで、一貫して人事をプロジェクト・メンバーとして参画させることで成功をおさめました。まず数社のターゲット企業がM&Aの対象候補として挙がった際、人事部門はその段階で入手可能な市場データ、記事、報告書などをもとに、各企業の企業文化の特異性、組織の課題、エグゼクティブ社員や統合後の戦略の要となる部門の過去の実績、特質、強みや弱み、労使関係などを分析しました。さらに、その分析をもとに、自社と統合した際に期待できるメリット、解決すべき問題点を洗い出し、プロジェクトチームに判断材料として提出しました。これらの分析と提案は、会社がM&Aに求める目的と新組織の理想形、必要な人材像を軸に行われました。
初期段階から理想形に照らした対象各企業の人的・組織的課題の概要を把握することで、買い手企業は明らかにミスフィットである会社を早期にスクリーニングするとともに、統合後に起こりうる問題についてあらかじめ予測し、次段階であるデュー・ディリジェンスで精査すべきポイントを明確にし、より精度の高い戦略デュー・ディリジェンスを行うとともに、統合に際して予測される人材リスクへの対応策を練ることができます。
日系企業の場合、戦略を起点に複数の対象企業からの絞り込みを行う、というよりも、投資銀行等から買収案件の紹介を受けてM&Aがスタートするケースも多く、買収の戦略的意義が後付け、あるいは曖昧になりがちであると言われます。その場合、新組織のあるべき姿の青写真や人的資源を判断する軸を定めるのに時間がかかり、早期の課題抽出も推量に基づいて行われる可能性があります。そうであっても、効果的なデュー・ディリジェンス、組織統合を行うためには、できるだけ早い段階から人事・組織的な要素を認識する必要があるといえます。
次回はデュー・ディリジェンスにおける人事の役割について解説します。
菅野葉子
Elf Global Associates, Inc.代表
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日時: 2010年01月07日 19:38 | パーマリンク
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