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2007年05月25日 13:07に投稿されたエントリーのページです。他にも多くのトピックエントリーがあります。メインページやアーカイブページをご覧下さい。
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インターカルチュラル・ビジネスセンター社
社長 渥美 育子
法則 6:マルチカルチュラルレンズをはめる(続き)-国際合弁・買収における認識の違い
先回は、マルチカルチュラルレンズを通してグローバルビジネスを行う重要さと難しさを、日本からシンガポールへの赴任という具体例を用いて取り上げ、解決方法を示唆した。今回は、全ての計画や実践をひっくり返してしまう可能性さえ持つ、異文化間のオペレーション、特に国際合弁(JV)や合併・企業買収(M&A)における‘認識の違い’(perception gap)を取り上げたい。
[事例]
制御関係の機器を製造販売しているある日系企業が、ヨーロッパ市場で製品が補完関係にある欧州企業を買収した。この欧州企業は米国にも子会社を持っていたので、日系企業はその子会社も半ば自動的に傘下におさめることになった。
米国の子会社では、マネジメントも従業員も新しい親会社からビジョンや経営戦略が通達されるのを待っていた。従業員の中には、日本式経営について学ばなければと思う者もいて、皆緊張を隠せなかった。
ところが、日本本社の重役たちは「あなた方のやり方を変える意図は全くありません。従来どおりに仕事を続けて下さい。」と伝えたのだった。
6ヶ月たった後、米国工場のアメリカ人たちは「新しい親会社はとても寛大で、私たちの好きなようにさせてくれる。問題は何もありません。」と言っていたが、実際には、前の親会社からも新しい親会社からもはっきりした指針が来なくて意気が上がらなかった。実力ある社員は既に他の会社に移ってしまっていた。一方、日系親会社のほうは従来どおりでよいと通達したことを忘れ「この米国子会社は‘目の上のコブ’。何でも自分勝手に決めてしまって、グループ全体の方針に従おうとしない」と憤っていた。
[解説]
この日本企業による海外企業の買収はどこがまずかっただろうか?
1. 日本の本社に、海外企業を買収するにあたって必要なグローバル戦略をたてられ る幹部がいなかった。
2. それならば、トップレベルの専門家(集団)を招いて勉強し、彼らの専門知識を 取得すればよかったのに、全て内輪で片付けてしまった。日本企業のトップに は、必要なノウハウを外部のプロから買うという習慣があまりないようにみえる。
3. 買収した外国企業に対し従来どおりでよいと伝えるのは、日本式マネジメントがもてはやされた80年代までは「和」の経営として好意的に受け止められた。しかし、グローバル時代の今、新しい親会社のCEOがグローバル戦略をびしびし導入して以前よりもっと成功が約束されるような新会社に導いていく力を見せなければ、社員が将来に希望を失うのは当然だろう。
4. 米国社会はコミュニケーションスタイルが極度にLow-contextである。つまり、 「買収によるマネジメントの変化はない。従来どおりに仕事をやりなさい。」と言われれば、アメリカ人は額面どおりに受け止めてアメリカ式のやり方を続ける。それに対して、本社内で不満を言いあうのは公正でないやり方、非論理的なマネジメントと受け止められても仕方が無い。
5. 更に言えば、日本本社の幹部は既に何十年も米国でビジネスをしていながら、ア メリカで働く人達をどう動機づけるかについて明確な手段を持ち合わせていない ようにみえる。
では、どうすればよかったのだろう。
◆ 企業の市場価値の7.6%は文化の違いによる破綻の対象になると言われる。外国企業の買収にあたって、買収条件を上手く交渉するのは勿論だが、買収後に価値を増やす戦略―つまり、どのように前よりももっと利益を生み出す会社にするか―をすぐさまたてる必要があった。
◆ 万一間に合わなくても、Stage1,2,3という形で何をいつまでにどう変革したいか、タイミングよく発表すべきだったろう。
◆ Legal codeの社会では‘公平な取り扱い’(fair treatment)が原則の一つなので、ヨーロッパ本社の買収が本命でこの会社は重要ではないという暗黙のメッセージは禁物。既に存在しているほかの米国子会社とこの会社の取り扱い、また日本人と米国人の取り扱いをなるべく早く一元化することも大切である。
◆ 買収をきっかけに日本企業のマネジメントの特徴などを勉強したいと意気込んでいる社員こそ大切にし、すぐさま学習のチャンスを与えてあげるべきだった。‘Perception gap’どころか‘Cultural fault line’(文化の断層)が存在していることを肝に銘じて、現地人が望むようなプロのトレーニングを受けさせるのが良い結果を生む。現地社員が新しい親会社のことを自主的に学ぶ計画を立てているのに、日本本社の誰かが不用意にも「そんなに勉強しなくてもいいよ」とか「外部の研修会社には我々の会社のことは教えられない」とか、「今更日本式マネジメントの何が学びたいのか」とか言ったためにダメになったケースがこの20年間で何度かあった。勉強しなくていいどころか、双方が始めにしっかり基本を学びあわなかったために、この事例のように本社と新規海外子会社の人間が180度異なる認識を持つことになってしまった。
もう一つ例をあげよう。
[事例]
2003年夏、日本のあるガス会社とオランダの石油メジャーグループが日本で自由化が進む電力小売に共同で参入することになった。しかし、このガス会社にとっては、異文化間のビジネスといった意識はあまりなかった。何しろ、国内顧客の開拓を担当すればよかったし、出資金も1億円以下。相手はオランダ系だといっても日本との合弁会社も加わっているし、日本人社員も多くいる。クロスカルチュラルトレーニングは見送られた。
2004年後半、石油メジャーグループの海外勢力(非日本人幹部や人事関係者)は、相手のガス会社社員のやり方が日本的で、共同展開が効率よく進まないのに苛立っていた。ビジネスのやり方について「認識の違いがある」と人事担当者は言った。
[解説]
このような認識のずれは、すべてのJVやM&Aにつきものだ。ただ、背後にトレーニングやコーチングに対する知識や信頼の違いがあって、それが文化のパラダイムによる‘認識の違い’を助長している。また、パートナーに遠慮してトレーニングの必要性を言い出せないのも問題だ。似たような事例を見てみよう。
(1)プロのトレーニングやコーチングの効用に気づかない場合
ヨーロッパ最大手の物流グループの一社が上海の自動車会社と合弁に入る準備をしていた。本社が上海に送りこんだのはスコットランド人をリーダーとするEMEA(=Europe,Middle East & Africa)とオーストラリア出身の‘7人の侍’。急ごしらえの、西欧、中東を代表する若いリーダーたちは、一人が中国の歴史書を読んだという以外は、中国について何の勉強もしていなかった。彼らの論理性、西欧型コミュニケーションとマネジメントの能力を駆使すれば、会議室で十分な成果を上げられると信じて着任したのである。迎える現地の自動車会社の重役たちは、現地の顧客や市場に精通している自分たちに絶大な自信を持ち、会議室にはほとんど姿を見せず、夜になると頻繁にこのグループを最高級料理店に招いて話しをつけようとしていた。
‘7人の侍’が極度のフラストレーションと中華料理への嫌悪感でまさに空中分解しそ うになった時、グループに所属する中国人社員がコーチングを進言したのである。スコットランド人のリーダーは、「あと2日で私がどれくらい重要なことを決定しなければならないかが分かれば、そんな時間がないのは明白だ」と叫んだ。しかし、実際にはコーチングを受けなければ重要なことも決定出来ない状態に陥っていた。一方、上海自動車の中国人幹部の頭にも外部から教えを受けるなどというアイデアは全く無く、ヨーロッパの連中が帰国したいのはホームシックのせいだと思い込み、益々饗応に励んだ。このEMEA対中国グループの‘Perception gap’は、たった1日か2日のコーチングで楽に防げたはずだ。
(2)一方の企業がトレーニングに否定的であったり、閉鎖的な体質である場合
自国がJVやM&Aの土俵であるために異文化トレーニングの必要性に気付かなかったり、社内の実情を外部のコーチや研修会社に知られたくなかったりすると‘Perception gap’が解決できず、共同のオペレーションが不完全燃焼に陥ることが多い。
空調で世界のトップクラスである米国企業と日系企業の空調部門が合弁関係に入った時、米国企業の幹部は日本と東南アジアで大規模な異文化研修を行い、共通理解のプラットフォームを築きたいと切望した。が、日本側が否定的であった為、結局断念してしまった。合弁に力を尽くした米国企業の社長はその後本社を去り、JVが発足した2,3年後には日本側が米国側に乗っ取られるのを警戒しているのだという声も聞かれた。‘Perception gap’を絶えず最小にする努力をしないと異文化間のコミュニケーションは一層乏しくなり、相手企業を信頼することができなくなる。もし早い段階で両者が互いに相手企業とそのルーツである文化についてセミナを受け、その後ジョイントセッションを行えば、アイデンティティを発見しあった者どうしが感激して、一緒に新しい企業を作っていこうと決意を新たにすることができる。国際合弁や買収にあたって、社員がこのパラダイムシフトを経験できるかどうかが成功への鍵だ。結局は、早い時期にプロのトレーニングによって地固めするのが得策だと言える。
では、合弁や買収に際して、全社員が前号で説明したような“グローバル ナビゲータ(sm)”(global navigator)に自由にアクセスできるとしたら、結果はどう変わるだろうか?日本―オランダの合弁の例をとって見てみよう。
オランダ側の1、2、6、10などはフレームワーク、囲い込み式マネジメントが強い日本企業と抵触する可能性が高い。4を知っていれば、たとえ資本の使い方や利益の分配で摩擦が起きても感情的にならず、落ち着いて妥協点を考えることができる。“チームワーク”が大切だと双方で言い合っても、望ましいパターンが違うかもしれない。
実際のトレーニングではJVやM&A向けのもっと詳しいツールを提供するが、少なくとも全員が最小限度これくらいの理解を既に持っていれば、この稿で取り上げたような深刻な‘Perception gap’に気付かないという事態は起こりえないだろう。
以上
日時: 2007年05月25日 13:07 | パーマリンク
